複数の原酒を組み合わせて一つの世界を創り出すブレンデッドウイスキー。
その陰には、感性と経験を武器に液体を設計するブレンダーの存在があります。
調和のお酒の真価を、今あらためて紐解きます。
目次
1. ブレンデッドウイスキーとは何か ― シングルモルトとの違い

世界を支える「調和の酒」
ウイスキーと聞くと、単一蒸溜所の個性を楽しむ「シングルモルト」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、世界で最も飲まれているのは「ブレンデッドウイスキー」です。
モルトウイスキーとグレーンウイスキーを複数組み合わせて造られるブレンデッドは、世界市場全体の約9割を占め、その多様性と安定感で長年にわたり多くの人々に愛されてきました。
個性の共演が生む「調和の深み」
シングルモルトが“ソリスト”だとすれば、ブレンデッドは“アンサンブル”です。
単一の蒸溜所の個性だけでは表現できない複雑で奥行きある味わいを、複数の原酒が互いを補い合いながら生み出します。
力強さと繊細さ、甘さとスモーキーさといった多彩な個性が交わり、一つの調和へと導かれる過程こそ、ブレンデッドの真髄です。
「大衆酒」では終わらない奥深さ
かつて「ブレンデッド=安価な大衆酒」という誤解もありましたが、決してそうとは言い切れません。
「ジョニーウォーカー ブルーラベル」や「響21年」など、世界的に評価の高いブレンデッドが多数存在します。
そこには、単なる飲みやすさを超えたブレンダーの技と哲学が凝縮されています。
2.2. ブレンダーという職人の存在
味わいをつくり上げる匠
ブレンダーの仕事は、単に原酒を混ぜ合わせることではありません。
数十種類・数百種類にもおよぶ原酒を前に、それぞれの香りや味わい、熟成年数や質感を見極め、理想の味わいへと導く――それは、感覚と経験を研ぎ澄ませた職人にのみできる仕事です。
複雑な性格を持つ原酒が互いを引き立て合い、全体として無駄のない調和を生み出すよう組み立てていく過程は、緻密な感性と論理的な思考力が求められる職人技の極みです。
そこには数値化できない人間的な感性と、積み重ねた経験の精度が息づいています。
日々のテイスティングと記録の積み重ね
ブレンダーの仕事の中心は、何よりもテイスティングです。
原酒サンプルを少量ずつ手に取り、色調・香り・味わい・余韻といった要素を五感で確認し、その特徴を詳細に記録していきます。
その数は年間数千にも及び、まさに人間の記憶と感性の限界に挑む作業です。
わずかな熟成差や樽由来のニュアンスの違いを感じ取り、原酒の“今”と“未来”を読み解く力こそ、熟練のブレンダーが持つ最大の武器です。
日々積み重ねられるこの観察と記憶の作業が、調和の礎を築いています。
試作と検証を重ねる創造の現場
ブレンド設計は一度で完成するものではありません。
理想の味わいを目指して配合を試し、少しずつ比率を変えては再テイスティングを繰り返します。
ときには100を超える試作品が作られることも珍しくありません。
そうして練り上げられたブレンドが、ブランドを象徴する味わいとして世に送り出されるのです。
芸術的な感性と科学的な分析力、そして膨大な試行錯誤の積み重ね――ブレンダーの仕事はまさに技術と芸術の融合です。
福與伸二氏が語る「記憶の図書館」
日本を代表するブレンダーの一人、サントリー チーフブレンダーの福與伸二氏は、自身の仕事を「記憶の図書館」と表現します。
何千という原酒の特徴を頭の中に蓄積し、その中から最適な組み合わせを引き出して設計する感覚は、まさに膨大な蔵書から必要な一冊を探し出す司書のようだといいます。
原酒の香味だけでなく、「熟成樽の履歴」や「その年の気候」まで記憶し、長期的な熟成変化まで予測してブレンドを組み立てる――こうした積年の知識と経験の集積こそが、ブレンダーという職人の真髄です。
3. 原酒選びとブレンド設計 ― 芸術的プロセス

蒸溜所と原酒の性格を読み解く
モルトウイスキーは骨格と香りの複雑さをもたらし、グレーンウイスキーは軽やかさと飲みやすさを与えます。
さらに、熟成年数や樽の種類によっても原酒の性格は大きく異なります。
例えばシェリー樽は甘やかなドライフルーツの香りを、バーボン樽はバニラやココナッツの風味を付与します。
ブレンダーはこうした多様な原酒の性質を把握し、理想の方向性に沿ってピースを組み合わせていきます。
設計図を描くという仕事
ブレンディングの出発点は、「どのような味わいを目指すか」という明確なビジョンです。
香りのトップノートを華やかにするのか、味わいの中心線を力強くするのか、あるいはフィニッシュの余韻を長く残すのか――ブレンダーはその設計思想を軸に、原酒の組み合わせを練り上げます。
小さな比率の違いが大きな味の差を生むため、緻密な試行錯誤が欠かせません。
ブレンド後の「なじませ」と最終調整
原酒を合わせた後も工程は終わりません。
ブレンドした液体を再び樽で熟成させ、時間をかけて味わいをなじませる“マリッジ”の工程が必要です。
その後もテイスティングと微調整が繰り返され、ようやく完成へと至ります。
すべての工程にブレンダーの繊細な感性と職人技が注がれています。
4. 味を「守る」ブレンダー ― ブランドの番人として
自然が生む“同じ原酒”は存在しない
ウイスキーは自然がつくり出すものです。
同じ蒸溜所でも、原料の出来や熟成環境によって原酒の性格は毎年異なります。
「同じ味わいを造る」ことは、実は極めて高度な技術が求められる作業なのです。
変化を見極め、味を揃える
ブレンダーは年ごとに異なる原酒の性格を読み取り、配合比率を細やかに調整してブランドの味を再現します。
そのためには、数十年分の原酒の記憶とテイスティングノートを蓄積し、わずかな違いも感じ取る感性が欠かせません。
「いつ飲んでも同じ味わい」という信頼は、こうした地道な努力の積み重ねで支えられています。
革新と伝統の両立
同時に、ブレンダーには時代に合わせて味わいを進化させる役割もあります。
嗜好の変化や新たな飲み方の広がりに対応しつつ、ブランドの本質は守る――その微妙なバランス感覚こそ、ブレンダーにしかできない仕事です。
5. 一杯の奥に広がる世界 ― ブレンデッドを味わうということ

背景を知ると一滴が変わる
ブレンデッドウイスキーは、単なる“飲みやすいウイスキー”ではありません。
その一滴には、蒸溜所ごとの歴史と個性、原酒の歩んできた年月、そしてブレンダーの哲学と技術が凝縮されています。
背景を知ることで、同じ一杯がまったく違った顔を見せてくれるでしょう。
飲み方で広がる楽しみ方
ブレンデッドの魅力は、飲み方によっても表情を変える点にあります。
ストレートでその複雑な調和を堪能するのはもちろん、ハイボールで軽やかな飲み口を楽しむのもおすすめです。
どのスタイルでも、ブレンダーの意図した「全体のバランス」が感じられるはずです。
“人の技”を味わうという贅沢
グラスの向こうには、数え切れないほどの選択と試行錯誤が積み重ねられた職人の仕事があります。
その一滴は自然の恵みであると同時に、人の手が磨き上げた芸術作品でもあるのです。
ブレンデッドウイスキーを味わうことは、その背景にある物語までも楽しむという、豊かな時間なのです。
おわりに ― 調和の芸術をグラスの中に
ブレンデッドウイスキーは、異なる原酒を結び、磨き上げ、ひとつの調和へと導く“職人の芸術”です。
そしてそれを可能にするのが、ブレンダーの感性と経験の結晶です。
グラスを手に取るとき、その背景にある技と物語に思いを馳せてみてください。
きっと、その一滴がこれまで以上に奥深く、魅力的に感じられるはずです。
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